研究室の目標
 工学・理学の諸分野において実現象を「複雑系」として捉える試みが注目されつつある. 非線形性で大きな自由度を持つ流体現象は典型的な複雑系の一つであり, その理解のために理論や実験によるさまざまなアプローチがなされてきたが,近年, 高性能コンピュータの利用を前提とした「数値シミュレーション」が 第3の方法として注目される. これを,流れに関する様々な複雑現象 -- 乱流,気泡・噴霧流れ,燃焼火炎,流体騒音・振動,空力加熱・熱伝達 – などの解析,予測に適用し,工学設計に導入するには, 流れの物理的な理解とともに,合理的な数理モデル, 数値演算などの精度や計算効率,大規模データを扱う グラフィカル・インターフェース,また,それらを実現する コンピュータ・ネットワーク環境,といった機械・情報・物理学の 広範な応用が必要とされている.
本研究室では,特に,非定常・3次元的な乱流現象の合理的な数値予測法として ラージ・エディ・シミュレーション (LES) ,また,反応・相変化を伴う複雑流動場を扱う革新的な熱流体物理モデルに着目して,それらの工学応用を前提とした基礎モデルと計算手法の開拓,解析ツール開発を進めている.これらの数値シミュレーション技術が真に工学設計に役立つために, (i) 現実の複雑な流れ現象を扱い,(ii) 精度(=誤差)と信頼性(=適用範囲) の正確な評価によって,(iii) 現象の要因分析 →設計クライテリアの評価 →機器性能設計 にいたる「モデルベース開発」(MBD: Model-based Development)の実現を目指している.

次世代流体解析ソフトウェアの開発
 当研究室では, 乱流の数値予測法として注目されるラージ・エディ・シミュレーション (LES) や,反応・相変化などを伴う複雑流動の高精度な非定常シミュレーションの工学設計への実用応用を目指して,次世代流体解析ソフトウェアの開発と実証研究を行っている. これまで, 実用流れ設計の複雑さを再現するため, 乱流の非定常3次元シミュレーション, 反応流や混相流など複雑系流れモデリング, 構造や音響場との連成シミュレーション, 超高速流れの高エネルギー実在気体シミュレーションなどにおいて,数千万~数十億点規模の実機形状・実現象シミュレーションを実現した.さらに,将来期待されるデジタルエンジニアリングへの適用を目指して,様々な実用問題における実証を進めている.

研究室が開発・検証にかかわっている主なシミュレーション・ソフトウェア

文科省次世代IT基盤構築のための研究開発プログラム 「戦略的革新シミュレーションソフトウェアの開発」 の一環として着手され,以降.多数の公的助成,共同研究,研究協力などの支援の下で,本研究室が主体となって開発・実証・普及を行ってきた.現在,その成果ソフトウェアが北海道大学,および,理化学研究所にて公開されている.
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  • 高エンタルピー流ソルバー:RG-FaSTAR

汎用的な高速流体ソルバーFaSTAR (JAXA)に、実在気体効果として高温領域における輸送係数、熱化学、反応モデルを追加し、再突入環境に現れる高エンタルピー流解析について十分対応可能なソフトウェア。共同研究としての再突入ミッションとの連携により、惑星大気再突入時に生じる宇宙機周りの高速・高温気流(high enthalpy flow)の挙動を調べる研究・教育などに使用されている。また、「京」を始めとした大型計算機資源を利用し、大規模計算での性能確認が実施されている。

  • プラズマ流・電磁波解析ソルバー:Arcflow/Arcwave

FD2TD法をベースとした電磁波解析ソルバーが含まれており、RG-FaSTARと組み合わせることで再突入ブラックアウト予測を行う。

  • 詳細反応機構を考慮可能な反応性流体解析手法

燃焼現象における詳細化学反応と流体の相互作用をモデル化するため、高効率な数値解析手法を研究開発している。化学反応方程式に対する高速陽的時間積分法、多成分系輸送係数に対する化学種バンドル法の開発を行い、従来手法に比べて2-3桁の高速性を実現した。適用範囲を拡張するため、アレニウス式に基づく反応項に適したサブグリッドスケールモデルの研究を進めている。